「LINEバイト」を始めとした求人サービスはもちろん、友人の紹介だったり、大学の斡旋だったり、アルバイトの探し方は人それぞれです。
「LINEバイト MAGAZINE」編集部は、大学のサークルやクラブ活動などで代々受け継がれるユニークなアルバイトが各地に存在するとの情報を入手しました。
今回取材したのは東京大学の「東大ふすまクラブ」に密着取材!日本の家屋の部屋や押し入れを区切る「ふすま」を日夜張り替える、職人的な秘伝バイトの実態に迫ります!
なぜ東大生がふすま張りを? 普段はどんな活動を? どれくらい稼げるの? そんな疑問をぶつけてみたら、想像以上にストイックな全体像が見えてきました。
【東大ふすまクラブ(東京大学)】業務:ふすま・障子の張り替え継続年数:60年部員数:14人実働時間(参考):8時間時給換算(参考):1000円
5月某日、編集部は東京大学の大学祭「五月祭」にて張り替えの実演を行なっていた「東大ふすまクラブ」を直撃。部員の武藤圭史朗さんに、ふすまの世界を熱く語ってもらいました。
ーずいぶん変わったサークル名ですが、具体的にどのような活動をしているのですか?
とても地味なのですが、一都三県を中心に、ご家庭のふすまと障子の張替えを格安価格で行なっています。サークル自体がアルバイトみたいな感じです。実は60年ほど続いている、息の長いサークルなんですよ。
ー60年! その生い立ちと歩みについて聞かせてください。
戦後に大学が生活の厳しい学生に向けにて斡旋していたアルバイトが起源です。やがて大学公認サークルの形で存続することになり、今に至っています。初代の人がプロのもとに弟子入りをして授かった技術を代々受け継いでいます。
ーまさに職人の世界ですね。その技術はどのようにして受け継がれているんですか?
基本的には、先輩の技を「見て覚える」。入部して最初の1年は部室にこもり、個々で黙々と張り替えの練習をします。回数に具体的なノルマはありませんが、目安として1年で50枚近くです。それくらいの修練を積んで初めて、実際に現場での仕事を任せられるようになります。
ー思っていた以上に地味でストイックですね。途中で辞めてしまう人も多そうですが…。
サークル名が珍しいためか、毎年それなりの入部者がいるんですが、その多くが夏休みあたりでフェードアウトしてしまいます…(笑)。2年目まで耐えぬいて現場に出るようになれば、どんどん面白くなるんですけどね。
ー武藤さんが入部したきっかけも、珍しさからだったんでしょうか?
実は、入学する前に決めていました。ふすまクラブに関する記事を見つけた僕の両親が勧めてきたことがきっかけです。僕自身もせっかく大学に入るのであれば、大学でしかできない変わったことしようと思っていましたので、特に迷いませんでした。でも1年間の張替え練習を終えて「ようやく一人前になったよ」と実家に報告したら、「じゃあうちのふすまを張り替えに来い」と言われて。「作業員として体よく利用されたのか!」と思いましたね(笑)。
こころよくインタビューに答えてくれた修士課程1年目の武藤圭史朗さん。ふすまクラブには入学と同時に入会し、今年で張り歴5年目のベテランです。
実際の張り替え作業はどんな感じなの?
枠を外す木槌や、古いふすま紙を剥がすノミ、糊などを延ばすためのハケなどの張り替え道具。ハケは用途に応じて、馬の毛、豚の毛、鹿の毛で出来た3種類を使い分けます。
ー実際の作業はどのようなものなのでしょうか?
ふすまは、障子と同じ骨と、それを覆う3層の紙(下から骨紙、下紙、表紙。表紙は”おもてがみ”と読む)で構成されていて、張り替え作業では基本的に上の2枚を交換します。枠を外して古い紙を綺麗に剥がした後、糊を使って下紙を張っていくのですが、この作業をシワなく丁寧にできるかが最初の関門ですね。見た目よりずっと大変で、緊張しっぱなしです。次に、紙問屋で購入した表紙をカットして張ります。
ーちなみに、表紙のお値段はどのくらいですか?
練習で使う安いもので1枚あたり1000円ほど、手漉きの高級品だと1〜2万円するものもあります。練習用に使う紙の購入には、普段の売り上げが充てられているので、最初にたくさん入部してきて、1年目にドカッと辞められてしまうと、財政難に陥ってしまいますね(笑)。
ー表紙を張るのも緊張しそうですね。
ふすまの顔ですからね。糊の塗り方が張ったあとの歪みなどに大きく影響するので、塗り残しがないのはもちろん、同じ幅、同じ濃さで塗るようにします。これもまた難しいんです。張り終えたら、枠をはめ直して完成です。ここまでをしっかり出来るようになるには、やはり1年ほどかかってしまいますね。
ふすまを構成する4つのレイヤー。普通はこのうち下紙と表紙のみを張り替えます。
ー一般的に、ふすまはどれくらいの頻度で張り替えるのですか?
毎年のように張り替える障子と違って、10年から20年に1度ほどです。「家が建って以来そのままなので50年間も張り替えていない」といったこともザラにあります。特に張り替えることが少ない骨紙は、小さなダメージを新聞紙などで補修することが多いため、ときおり昔の新聞紙が見つかることがあります。先日は明治時代に建てられた家のふすまから、慶弔何年だかの出納帳が出てきたんですよ。
ー張替えの頻度が少ないとなると、依頼の件数はやはり少ないのでしょうか?
和室の数自体が減っていますので、最近では月に1〜2件なんてこともあります。ただ、中には模様替え感覚で2〜3年ペースで張り替える方もいて、その場合はお宅ごとに担当者がつきます。先輩から代々引き継がれた案件もあります。
ーでは、これまでの印象的な依頼を教えてください。
伊豆の旅館からの依頼で、泊りがけで張り替えをしたことがあります。丸2日間ほとんど休む暇もなく張り替え作業をして、観光している暇もなく帰ってきました(笑)。
ー精神的にかなり鍛えられそうですね…。
肉体労働でもあるので、身体もある程度鍛えられます。高校生まではほとんど運動をしてこなかったんですけど、張り替えをこなしているうちに、だんだん筋肉がついてきました。
アルバイトとして割はいいの?
ー実際のところ、どれくらいの稼ぎになるんでしょうか?
時給換算にするとかなり安いです。その上、依頼件数も減っていますので、稼げたとしても現場帰りの飲み代プラスαくらい、なんてこともよくあります。肉体労働で、時給が低くて、回数も少ないので、アルバイトとしては割に合いません。以前、張り替えに行ったご家庭の息子さんの家庭教師になった部員がいたのですが、正直東大生ならそっちのほうが何倍も稼げます。
ーそれでもふすま張りを続けようというモチベーションは、どこから湧いてくるんでしょうか?
珍しくて面白い一芸が身につく、ということかもしれません。飲みの席で「俺、ふすま張れるんだぜ」なんて言ったら、掴みとしてはバッチリじゃないですか?(笑) あとは何よりも、ふすま張りが好きだからです。肉体的にはキツい作業ですが、紙が一発できれいに張れた時や、張り終わったふすまを眺めている時は、何ものにも代えがたい爽快感があります。また、作業中はふすまことだけを考えていられるので、精神的なリセットにもなるんですよ。
ー最後に、ふすまクラブとして今後の意気込みを教えてください。
60年という長い伝統は、サークルにとっても、東大にとっても大きな財産です。この歴史守るためには、やはり日々張替えの練習をして、地道に活動を続けていくことしかありません。Twitterではサークルの情報を発信していますので、 気になる人は是非チェックしてみてください。